秘密の地図を描こう
35
「……襲われた? キラが、か?」
時間を作って顔を出した瞬間、ニコルから聞かされのは想像もしていなかったセリフだった。
「はい。議長のお宅に戻られたのですが……気晴らしに出かけられた先で襲われたとか」
最初は物取りか何かだと思われていたらしい。しかし、調べたら違ったようだ、と彼は続けた。
「犯人はどこの人間だ?」
イザークが低い声で問いかける。
「一応、プラント籍です。もっとも、オーブからの移住者だそうですが」
ニコルがため息とともに口にした。
「オーブか……」
ディアッカは考え込むような表情を作る。
「じゃ、ブルーコスモス関係者、とは言えないわけだ」
確かに厄介だ、と彼は続けた。
「そうなんですよ」
ニコルがすぐにうなずく。
「キラさんの複雑な事情を考えれば、身柄を確保したいと考えているのはブルーコスモスだけではないでしょうから」
アスラン達だって、できれば彼に帰ってきてほしいと考えているだろ。だが、彼らの場合、キラがいやがれば強引に連れ戻すことまではしないのではないか。
だが、他の首長家はどうだろうか。
「セイランが裏でキラを探している、ってミリィが言ってたな、そういえば」
アスハと協力してではなく、自分達だけで……とディアッカは続けた。
「セイランと言えば、ブルーコスモスとつながっているらしいと噂されていたな」
「噂じゃないですよ。確定らしいです」
イザークの言葉をニコルが訂正する。
「それなのに、ブルーコスモスではなくセイランが単独で動いているらしいのです」
つまり、自分達のためだけにキラの身柄を確保したい、と思っているらしいのだ。
それはそれで厄介ではないか。
「どちらにしろ、あいつは狙われていると」
結論はそれだけだろう、とイザークは言う。
「そうですね」
「確かに」
本当に厄介な状況に置かれているな、あいつは……とディアッカは呟く。
「それで、キラは今、どこにいるんだ?」
アカデミーの寮か、と問いかけた。
「いえ。まだ、議長のお宅です」
レイの方は戻ってきているが、とニコルは言う。
「当面は、あちらの方が安全ではないか、と。不本意ですが、アカデミーにもオーブからの移住者はいますから」
彼らについて調べなければ安心できない。彼はそう続けた。
「まぁ、自己満足なのですが」
くすっと彼は自嘲の笑みを浮かべる。
「気持ちはわかるが……まさか、一人で?」
「いえ。議長の指示です。僕はあくまでも協力者の一人ですよ」
さすがに、アカデミーで講義を受け持っていれば無理です……と彼は言う。
「ならいいが……」
それで納得するのか、とため息をつく。それとも相手がニコルだからだろうか。
「ミゲルは?」
ふっと思い出したようにイザークは言った。
「講義中ですよ。あぁ、それについても話があるんです」
こちらは人に聞かれても困らない内容です、とニコルが言葉を返す。
「なので、談話室に移動しませんか?」
でないと、そろそろ不審を抱かれかねない……と彼は言外に告げてくる。
「そうだな。久々にアカデミーのまずい珈琲を飲むのも悪くはない」
イザークがそう言う。
「はいはい。そういうことにして、移動するか」
勝手知ったる母校、と言うことでディアッカは言葉とともにさっさと行動を開始した。